法人カードをはじめて契約する際、引き落とし口座を「法人口座にすべきか?」それとも「個人口座にすべきか?」迷う人も多いでしょう。
この記事では、法人カードを作る際の決済口座について、メリットやデメリットを含め詳しく解説します。支払口座やクレジットカードの使い方によってはデメリットも大きいため、注意が必要です。
目次
結論からいうと、法人カードの支払いに使う銀行口座は、法人口座・個人口座どちらも設定可能です。ただし、利用する口座の種類によって手続き方法や必要書類が変わることもあるため、申込時には申込条件をよく確認しておくようにしましょう。
ちなみに、法人カードには「法人決済型」と「個人決済型」があり、それぞれメリットやデメリットがあります。
法人決済型カードとは、法人口座で利用代金を決済するカードのことです。一方、個人決済型カードは、代表者や取引責任者の個人口座で決済するクレジットカードのことを指します。
複数の従業員が持つコーポレート型のクレジットカードのなかには、実際にカードを使用する個人の口座で支払えるケースもあります。
ただし、個人決済型だと個人的な利用でクレジットカードを使ってしまい、経費精算の際に「仕事で使ったのか?」「個人利用なのか?」区別がつかなくなる点に注意が必要です。
法人カードは、原則会社経費の支払いや接待交際費などに使うことが多いため、税務上の観点からも法人口座で支払うのが理想といえます。
法人化している会社で法人カードを契約する場合は、法人口座で決済する方法がおすすめです。
法人口座で決済するメリットは次の3つです。
- 個人利用と法人利用を分ける必要がなく無駄な事務作業が発生しない
- 個人利用の経費を誤って法人経費として計上してしまうなど、税務処理上のトラブルを避けられる
- 従業員が故意に個人利用してしまうなど、コンプライアンス上の問題発生を防げる
法人カードの決済を個人口座にしてしまい「仕事もプライベートも使ってよい」としてしまうと、経費精算の際に無駄な事務作業が発生します。
特に第三者との会食などの機会が多い代表者は「仕事のための会食なのか?プライベートの会食なのか?」区別が難しいケースも多いでしょう。
個人口座で決済する法人カードで、ビジネスとプライベートの両方を決済できるようにしてしまうと、毎月の経費管理が大変です。
「ビジネスでの会食は法人口座で登録したカードを使う」、「プライベートは個人口座を登録した個人用カードで支払う」と分けておくと間違うこともありません。
個人事業主が法人カードを作る場合は、個人口座しか設定できません。なぜなら、法人口座を申請する際には「法人の印鑑登録証明書」など、実在する法人であることを証明する書類が必要になるからです。
なお、ゆうちょ銀行で事業用の口座を作る場合でも、屋号のみでの口座開設はできません。個人事業主はプライベートで法人カードを使ってしまうことも多く、経費の整理が面倒になるケースが多々あります。
「事業用はA社の法人カード」「プライベート用はB社の個人カード」といったように2枚使い分けるのがおすすめです。
参考:ゆうちょ銀行公式サイトよくある質問「屋号や別名で口座開設することはできますか?」
法人カードを個人利用した場合や、法人カードを個人口座で支払った場合の注意点について詳しく見ていきましょう。普段の経費管理の参考にしてください。
「プライベートで移動中に現金がなく、やむなく法人カードで給油した」など、やむを得ない理由で法人カードを個人利用してしまうケースもあるでしょう。
なかには法人カードで取引先とのゴルフ代を決済したものの、経理から「接待交際費としては認められない」と言われるケースもあります。
法人カードを個人の利用目的で使ってしまった場合には、以下の点に注意するようにしましょう。
- 経理担当者へ報告する
- 個人宛の領収証をもらっておき、後日カードの利用控えとコピーを経理担当者へ渡す
- ポイントやマイルを個人的に利用しない
会社の代表者が法人カードを使う場合は「なんの目的でカードを使ったのか?」利用明細書などにメモを残しておくのがおすすめです。
また、上記の注意点のなかで特に覚えておくべきなのが「ポイントやマイルの利用」についてです。法人カードの契約者は個人ではなく、あくまでも法人です。
利用目的が個人であれ仕事であれ、クレジットカードに付与されたポイントやマイルの使用権利は法人に属します。
「スマホで簡単にポイント決済できるから」「ポイントを使ってネットで商品を買えるから」など安易な理由でポイントを個人利用すると、後々トラブルの原因となります。
代表者ならともかく、従業員が法人カードのポイントを個人利用してしまうとコンプライアンス違反になる可能性も高くなるでしょう。
カード利用はもちろん、ポイントの使い方においても、仕事とプライベートは切り分けるのがおすすめです。
法人カードの支払口座に個人口座を設定することは可能ですが、個人口座での決済はデメリットが多いため注意が必要です。
経費精算の仕分けが煩雑になるうえ、カード申込時に従業員の個人口座で手続きしてしまうと、従業員の信用情報が審査結果に影響するかもしれません。
法人カードの審査基準は非公開です。ただし、どのカード会社も支払口座の名義人の信用調査は実施するでしょう。ましてや決済口座を従業員の個人口座にしてしまうと、個人の信用情報が審査結果を左右してしまうことは避けられません。
また、支払口座の名義人が他社カードやカードローンで延滞していたり、自己破産や個人再生など債務整理をした履歴があったりすると審査通過は難しいでしょう。
個人口座を使って法人カードを作りたいなら、下記3つの信用情報機関の本人開示サービスを利用し、信用情報に問題がないかチェックしておくのがおすすめです。
参考:信用情報機関のCIC_本人開示
参考:信用情報機関のJICC_本人開示
参考:全国銀行個人信用情報センター_本人開示
個人口座の口座開設と比較し、法人口座の開設は必要書類も多く審査に時間がかかります。取引銀行の公式サイトなどをよくチェックしておき、時間に余裕をもって手続きするようにしましょう。
口座開設の申込方法は銀行によっても異なりますが、Webからの申込めるケースがほとんどで、窓口に行かなくても口座開設まで完結します。
今回は「りそな銀行の法人口座開設の流れ」を参考に、手続き方法を詳しくご紹介していきたいと思います。
【法人口座開設の流れ※りそな銀行の場合】
STEP1 りそな銀行公式サイトから手続き開始 | 法人口座の開設ページから手続き開始(法人か個人事業主かなど事前の質問に回答し、手続きを進める) |
STEP2 必要書類の提出 | PDFでWebから提出する |
STEP3 本人確認 | 代表者の自撮り撮影写真を提出(Webでの提出は、代表者と取引担当者が同一の場合のみ手続き可能) |
STEP4 審査結果の連絡と申込書返送~電子契約 | ・審査通過すると自宅に申込書が届く ・届いた書類に必要事項を記入し返送 ・インターネットバンキングや法人カードの電子契約などの手続きを済ませる |
STEP5 口座開設完了 | 法人の届け出先住所へ通帳が届く(通帳を受け取れない場合は口座利用制限がかかる場合があるため要注意) |
なお、りそな銀行の場合は「外国為替取引および貿易業務をしている」「一部の許認可事業をしている」など、特定の企業の場合は店頭手続きも必要です。
申込ページの事前質問に回答すると手続き方法がわかりますので、間違えないように回答しましょう。
参考:りそな銀行法人口座開設ページ
法人口座を開設する場合は、個人口座よりも複雑な書類提出が必要です。以下は、りそな銀行で法人口座を開設する場合の必要書類です。
必要書類 | 備考 |
法人の印鑑証明書(必須) | 法務局で取得(発行後3ヵ月以内のもの) |
履歴事項全部証明書(必須) | 法務局で取得(発行後3ヵ月以内のもの) |
本人確認書類(必須) | 運転免許証やマイナンバーなどの書類から2点必要 |
本社確認書類(必須) | 賃貸事務所の場合は賃貸契約書など |
実質的支配者の確認書類(必須)参考:法務省公式サイト「実質的支配者リスト制度の創設」 | 実質的支配者情報一覧、直近決算期における法人税確定申告書の別表二など |
上記のほか、審査の状況次第では「事業内容確認書類」や「事業実態確認書類」などの提出を求められる場合があります。あとで提出を求められる可能性が高い書類は、事前に用意しておくのがおすすめです。
法人口座開設を申し込んでも、審査の結果口座開設ができないケースもあります。口座開設ができないおもなケースは次の4つです。
- 提出書類に不備がある(※本人確認書類の情報が古いなど)
- 事業内容が不明確、または法人としての信用度が低いと判断された(会社の所在が明らかではないなど)
- 代表者の信用力が乏しい(支払能力に問題があると判断された)
- 反社会勢力との関係がある
なお、クレジットカードを規制する割賦販売法では、反社会的勢力との関係を遮断するルールが定められています。審査の際には、反社会的勢力に関係する企業かどうか、警察庁データベースなどでチェックされます。
いかなる理由であれ、反社会的勢力であることが判明した場合には与信や不適切又は異例な取引を行わないこと
割賦販売法(後払分野)に基づく監督の基本方針 令和元年8月経済産業省 商務情報政策局
法人カードの申し込みでよくある質問についても回答していきます。カード会社の公式サイトにはない情報もありますので、ぜひ参考にしてください。
法人カードの申し込みの際には、代表者個人の信用調査も実施されます。
カード申込時には、代表者の運転免許証やパスポートなど本人確認書類の提出も必要ですので「代表者個人の信用調査は実施される」と思ったほうがいいでしょう。
代表者個人が下記に該当する場合は、審査に影響が出るかもしれません。
- 他社カードローンやクレジットカードで多額の借入れがある
- 他社ローンなどで滞納している
- 銀行ローンなどで保証会社が代位弁済した履歴がある
- 自己破産や個人再生、任意整理など債務整理をした履歴がある
また、法人カードを申し込むと、信用情報機関に金融機関などからの照会履歴が6ヵ月間残ります。短期間に複数の法人カードに申し込んで審査に落ち続けると、金融機関からの照会履歴だけが残り、一方でクレジットカードの契約履歴が「0件」となってしまいます。
信用情報機関の照会履歴は、他社金融機関やカード会社も閲覧可能です。照会履歴ばかりが多数残り契約履歴が1件もないと、「カード審査に落ち続けている」と証明しているようなものです。
短期間に複数の法人カードに申し込む際は、1社~2社程度におさえておくようにしましょう。
結論からいうと、事業実績が審査に影響するかどうかは、カード会社の審査基準が非公開のためわかりません。
法人カードによっては黒字決算でないと申し込めないケースがあり、「当期は赤字なので審査通過が難しいかも」と不安に感じる代表者も多いでしょう。しかし、赤字であっても業績不振による赤字なのか、設備投資などによる一時的な赤字なのか一概には言えない部分もあります。
開業して間もない法人だと事業が軌道にのるまで時間がかかることもあり、赤字決算の法人も多いでしょう。いずれにしても申し込んでみないとわからないため、あまり先入観を持たないほうが良いかもしれません。
カード会社によっては、法人カードの引き落とし口座として当座預金口座も利用できる場合があります。
例えば、足利銀行のJCB法人カード公式サイトを見ると「お申込みの手続きの時点で当行に普通・当座預金口座をお持ちの方が対象です」と書かれていますので、当座預金も利用できることがわかります。
詳しくは申込予定の法人カード公式サイト、またはコールセンターなどに問い合わせると良いでしょう。
法人カードで決済したときのサインは、個人名が正解です。
法人カードを貸与されるのは個人であり、カード券面にも代表者や使用者の個人名が刻印されているケースがほとんどです。(※セキュリティ上、カードに番号や名前が刻印されていないケースもあります)
会社名でサインしてしまうと、クレジットカードの使用者や利用目的が曖昧になり、場合によっては不正利用を疑われる可能性も出てきます。上記の理由から、法人カードのサイン欄には、必ず個人名を書くようにしましょう。
法人カードの支払口座は、基本的には法人口座が望ましいですが、個人口座でも手続きは可能です。しかし、個人口座で支払うと個人用か会社用かの区別をつけにくくなり、経費処理のミスにつながります。
個人事業主は個人口座のみしか設定できませんが、法人でカードを申し込む場合は法人口座で支払うようにしましょう。