法人カードは、事業経費の支払いで経理処理の負担を軽減できる便利なツールです。
しかし、個人的な支出の支払いに利用すると、さまざまな問題が発生するおそれがあります。経営者や経理担当者は、法人カードの個人利用の問題点を把握しておきしょう。
この記事では、法人カードの個人利用のデメリットや経理処理について解説し、個人利用を防ぐための対策も紹介します。
目次
そもそも法人カードは法人の経費の支払いを前提としたクレジットカードです。個人的な支払いのために利用するものではありません。
そのため、法人カードの個人利用には、次のようなデメリットがあることを知っておきましょう。
法人カードを個人で利用してしまうと、経理処理の手間が増えてしまいます。個人的な支払いに法人カードを利用した場合、その分を法人であれば「役員貸付金」で仕訳する必要があります。
また、「役員貸付金」を消すためには個人利用したお金を、法人に返さなければなりません。「たまたま間違えて」のような事情であれば、それほど問題はありません。
しかし、法人カードの個人利用を頻繁にすると、このような経理処理を繰り返さなければならなくなるのです。
法人カードは経費支払いの業務効率化を図れるツールのため、個人利用が常態化してしまうのは本末転倒といえます。
法人カードを個人利用すると、税務署から脱税の疑いをかけられるおそれがあります。個人的な支出まで事業の経費として計上すると、税金を減らしているのと見なされてしまうのです。
また、法人カードの個人利用を続けることは横領にあたり、刑事責任を問われる可能性もあります。2014年には大手製鋼メーカーの社員が、法人カードで3億円相当を私的利用して逮捕される事件がありました。
誤って利用してしまった場合は速やかに返金し、法人カードの個人利用を習慣にしないように注意しましょう。
参考:三菱製鋼元社員の3億円横領事件 その手口と発覚の理由とは
法人カードを個人利用すると、会社が金融機関から融資を受ける際に不利になる場合もあります。法人カードの個人利用は法人の場合、「役員貸付金」で経理処理されます。
「役員貸付金」とは、会社のお金を個人が借りている状態です。役員貸付金が決算書に記載されていると、金融機関からの評価に悪影響を与えます。
少額であればそれほど問題にはなりませんが、金額によっては「公私混同している」「財務管理が甘い」と判断されかねません。
結果として融資が受けられなくなったり、条件が悪くなったりする可能性も考えられます。経営に重大なマイナスをもたらすおそれもあると知っておきましょう。
法人カードの個人利用が問題となるのは個人事業主より、法人のケースです。
法人の役員がプライベート利用で法人カード決済をしてしまった場合、基本的には勘定科目「役員貸付金」で処理をしなければなりません。ここでは、法人カードの仕訳と役員貸付金の問題点について解説します。
法人カードの個人利用の勘定科目は個人事業主と法人で異なります。個人事業主では「事業主貸」を用い、法人では「役員貸付金」を用いて仕訳をします。
以下は、プライベート用の買い物3万円を個人事業主が法人カードで決済した場合の仕訳例です。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
事業主貸 | 30,000円 | 未払金 | 30,000円 |
事業主貸は法人の会計には存在せず、給与のない個人事業主の個人の出費と事業経費の区別を目的とする科目です。そのため、個人事業主のクレジットカードの個人利用では、事業主貸として処理すれば特に問題はありません。
法人でクレジットカードの個人利用をした場合は、一時的なケースとそうでないケースで仕訳が異なります。
【一時的な場合】
たとえば、法人オーナーが誤って個人の支出3万円を法人カードで支払ってしまった場合、すぐに精算するのであれば、以下のように処理します。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
仮払金 | 30,000円 | 未払金 | 30,000円 |
会社にお金を返したら、以下のように仕訳します。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
現金 | 30,000円 | 仮払金 | 30,000円 |
【すぐには返済しない場合など】
上記のようなケースと異なり、金額が高額ですぐに返済できないような場合は「役員貸付金」で仕訳をします。以下は、個人の支出100万円を法人カードで支払ってしまった場合の仕訳の例です。
借方勘定科目 | 借方金額 | 貸方勘定科目 | 貸方金額 |
役員貸付金 | 1,000,000円 | 未払金 | 1,000,000円 |
個人事業主と違い、法人の役員が法人カードを個人利用して役員貸付金で経理処理をした場合は、以下のような点で問題となります。
- 対外的な信用を失う
- 利息を計上しなければならない
- 相続の対象になる
それぞれについて、解説します。
役員貸付金があると、対外的な(特に金融機関から)信用を失うおそれがあります。法人カードの個人利用のようなケースでは、役員が会社のお金を公私混同して使っていると見なされます。
そのような会社では、融資した資金を個人に流用されかねないと思われるかもしれません。金融機関から好条件で融資を受けたい場合、役員貸付金は不利に働くと考えられます。
貸付を受けている役員は会社に対し、定められた利息を支払わなければなりません。
会社が役員から利息を受け取った際の経理処理も、適正に行う必要があります。受取利息は営業外収益となり、黒字企業であれば法人税が増えてしまいます。
また、役員が無利息または決められた利息より低い利息しか支払わない場合、利益相当分を役員給与として課税されます。
参考:国税庁「金銭を貸し付けたとき」
役員が役員貸付金を返済せずに亡くなってしまうと、相続人が債務を引き継ぐことになります(民法第896条本文)。相続人は会社と無関係だったとしても、返済をしなければなりません。
参考:e-GOv法令検索 民法第896条
以上の問題点を踏まえると、役員貸付金の放置は会社にとって望ましいとはいえません。返済が長引いたり、金額が多くなったりするほど問題が大きくなります。
そのため、できるだけ速やかに解消すべきといえます。 役員貸付金の解消とは、役員が返済することにほかなりません。
少額であれば、役員個人の資金を入金するとよいでしょう。しかし、法人カードの個人利用が度重なってすぐに返済しきれないような場合には、以下のような方法での返済が考えられます。
- 役員報酬から控除する
- 役員退職金と相殺する
- 役員の個人資産(不動産など)を法人に売却する
基本的には役員報酬からの天引きで返済を進めていくとよいでしょう。
法人カードは経理処理を楽にする有益なツールですが、トラブルなく利用するには以下の2つの点に注意する必要があります。
法人カードの決済方法には「法人決済型」と「個人決済型」の2種類があります。法人決済型とは、カードの利用代金が法人口座から引き落とされるタイプです。
法人決済型のカードを個人の買い物で利用すると、個人的な支出を法人が立て替えることになり、経理処理が複雑になります。法人カードを利用するメリットの1つに経理処理の効率化がありますが、個人利用をすると余分な手間がかかってしまいます。
出張先で個人的な買い物をするような場合、法人カードは使用せず、現金や個人のクレジットカードで支払うようにしましょう。
一方、個人決済型の法人カードでは、カードの利用代金が個人口座から引き落とされます。事業経費分を個人で立て替えてから精算する仕組みのため、個人利用しても問題ありません。
法人カードで獲得したポイントやマイルは、カード代金を支払った会社のものです。
経費の支払いをカードに一元化する会社では、ポイントも多く貯まります。貯まったポイントをカードの支払いに充てられるカード会社もあり、経費節減に役立ちます。
そのため、ポイントは金銭ではありませんが、同等のものとして扱われると考えましょう。
もちろん、「ポイントやマイルを個人で使ってもよい」という社内ルールがあれば、個人での利用も問題ありません。しかし、それ以外の場合は、法人カードのポイントやマイルを個人で使うのは避けましょう。
法人カードの追加カードを社員に持たせる場合、個人的な利用をしないようにする必要があります。会社のルールで法人カードの個人利用が禁じられていたとしても、誤って使用してしまうかもしれません。
そのようなミスを防止するためには、会社側で対策を立てておくとよいでしょう。 法人カードの個人利用を防止するには、以下のような方法が考えられます。
法人カードの個人利用の防止には法人カードの利用に関する社内ルールを整備する方法があります。その場合、社員への周知が大切です。
法人カードを持っている社員は、限度額の範囲内なら個人利用もできてしまいます。そのため、悪意を持った不正利用のリスクもゼロではないでしょう。ルールの策定は、不正利用の抑制に一定の効果を期待できます。
法人カードの利用にあたり私的利用を防ぐために有効なルールには、以下のようなものがあります。
- カードを発行する社員を限定する
- カードの利用範囲を決める
- 利用上限額を決める
- イレギュラーなカード決済は管理者の事前承認を要する
- 領収書を提出させる
ルールさえ作れば、法人カードの利用が適正になるとはいえません。違反へのペナルティを決めておき、定期的なチェックも怠らないようにしましょう。
カードの利用ルールの整備だけでなく、追加カードのカードごとの利用上限額を設定しておくのも私的利用の防止効果を期待できます。
法人カードはカードごとに異なる利用限度額を設定できます。カード単位の利用上限額を設定しておけば、上限に達した場合はそれ以上利用できません。業務に最低限必要な金額を上限に設定しておくと、個人利用の決済には使えなくなるでしょう。
そこでおすすめの法人カードが「UPSIDERカード」です。UPSIDERカードならカード単位の利用上限額の設定ができるのはもちろん、法人カードに必要なセキュリティ機能が充実しています。
法人カードの利用先がカードごとに限定されていると、その利用先以外では使えないため、私的利用や不正利用はできなくなるでしょう。
UPSIDERカードには、カードごとに利用先を制限できる「利用先制限機能」が標準搭載されています。決済できるサービスをカードごとに設定しておくと、カードの不正利用や意図しない決済の防止が可能です。
200以上のサービスを利用先として設定でき、日次・月次・取引ごとの上限金額、通貨、利用期間も設定できます。たとえば、利用先を「Facebook広告のみ」のように限定でき、不正な利用の排除が期待できます。
法人カードは個人用のクレジットカードとは違い、企業や個人事業主が事業の支払いに使うために発行されます。一方、個人用のクレジットカードは個人の買い物や公共料金の支払いなど私的に使うためのクレジットカードです。具体的に相違点を見てみましょう。
個人向けクレジットカードとは個人名義のクレジットカードで、以下のような個人の支払いに利用します。
- 公共料金の支払い
- 実店舗での買い物
- オンラインショッピング
- 海外旅行
- 電子マネーのチャージ
個人向けクレジットカードの利用代金は、個人名義の銀行口座から引き落とされます。
法人カードは事業に関する経費の支払いに使用する、会社や個人事業主向けのクレジットカードです。一般的に個人向けクレジットカードに比べて利用枠が大きめに設定されます。
法人カードには大きく分けて、大手企業向けの「コーポレートカード」と、個人事業主や中小企業向けの「ビジネスカード」の2種類に分類されます。
法人カードと個人向けのクレジットカードには、支払い口座や限度額、付帯サービスの内容などいくつかの違いがあります。以下の表に主な違いをまとめました。
| 法人カード | 個人向けクレジットカード |
支払い口座 | 法人決済型:法人口座個人決済型:個人口座 | 個人口座 |
利用限度額 | 審査、カードのランク、発行会社によるが個人向けカードより高め | 一般カードで10万円~100万円程度 |
追加カード | 社員用カード | 家族カード |
付帯サービス | 出張費の飛行機やホテル予約の優待、会計ソフトとの連携など、ビジネス向けの特典 | 提携先での優待サービス、旅行傷害保険の付帯保険など |
法人カードは本来、事業の経費を支払うためのカードです。個人利用は会社の資金を個人で使うことを意味します。
また、法人カードの個人利用は経理処理が複雑になり、金融機関からの評価でも負の影響を及ぼします。常習的な利用は避け、個人利用分があれば速やかに返済しましょう。
法人カードで経理処理を効率化するには、ルールに則った適正な利用が前提となります。法人カードを社員が適正に利用するには社内ルールの整備とともに、不正利用を防止する機能の充実したカードの採用が有効です。
UPSIDERカードは業界唯一のカードごとの利用先限定機能などにより不正使用率0.0005%と、他社平均の100分の1以下の低水準となりました。ユーザーの利便性と安全性を両立した法人カードとして、幅広い企業に支持されています。
法人カードの不正利用を防止したい経営者様、経理担当者様におすすめです。ぜひ検討してみてください。